研究最前線

このページでは、生物資源工学科関連の最新の研究成果を紹介しています。

沖縄の在来植物「島桑」の魅力−伊東昌章教授−

沖縄高専生物資源工学科では、沖縄の生物資源を活かした研究教育が行われており、県内外に多くの人材を輩出しています。今回は、沖縄の在来植物「島桑」の機能性に関する研究を実施され、浦添市、浦添市シルバー人材センターと共同で、シマグワ葉パウダー「てだ桑茶」を開発されている、伊東昌章教授に取材を行いました。


写真1:伊東昌章教授と「てだ桑茶」

沖縄の身近な植物を活かした研究

質問:
今回、琉球新報にて、「「島桑の葉」血糖値を抑制」に関する研究内容が発表されました。今回の研究のきっかけについて教えてもらえますか?

伊東教授:
私の研究室では、カイコを用いた無細胞タンパク質合成系の高度化に関する研究を進めております。桑の葉は、カイコの餌として用いられており、沖縄にも島桑(シマグワ)が自生しています。浦添市では、シマグワを栽培し、その葉を餌としてカイコを飼育し、繭をつくらせ生糸をとる養蚕業に取り組んでいますが、養蚕を行わない時期のシマグワの葉はそのまま余っていました。そのため、シマグワの新しい価値を見出し、余ったシマグワを有効活用することを目的として、浦添市、浦添市シルバー人材センターと共同で研究を進めた経緯があります。

写真2:浦添市の島桑畑

研究成果を活かした産学官連携での商品開発への展開    

質問:
シマグワ葉パウダー「てだ桑茶」を作るに至った経緯について教えて下さい。

伊東教授:
浦添市、浦添市シルバー人材センターと共同で研究を進めた結果、県産のシマグワ葉の糖分解酵素活性阻害作用が本土産の桑葉より優れていることが分かってきました。その後、シマグワ葉の利用しやすい形態を考え、パウダー化しました。そして、シマグワ葉パウダーを摂取した場合、砂糖水を飲んだ後の血糖値の上昇が抑えられることも分かってきました。このパウダーを製品化したのが、「てだ桑茶」です。

質問:
今後の島桑の研究に関する方向性について教えてもらえますか?

伊東教授:
今後さらにシマグワ葉の機能性評価を進めていきます。また、県内の食品メーカーと連携してパンや沖縄そばなどの加工食品にもシマグワ葉パウダーを加える試みを行い、より気軽にシマグワ葉の有効成分を摂取できるような製品化を目指していきたいと考えております。


写真3:伊東教授と研究室の学生達

伊東教授の研究に関する新聞記事は以下からもご覧頂けます。

沖縄固有種の桑の葉に血糖値抑制物質 本土産より多く含有

バイオインフォマティクス の力で沖縄生物資源の潜在能力を炙り出せ!−池松真也教授−

沖縄高専生物資源工学科では、当初からバイオインフォマティクスに関わる人材育成を積極的に行い、バイオインフォマティクス技術者認定試験にて、最年少合格者(詳細はこちら)を含む多くの合格者を輩出するなどの実績を積み上げてきました。更に3年前から、Illumina社の次世代シーケンサMiSeqも設置され、生物資源工学科における様々な研究用途に活発に用いられています。今回は、これらの研究活動の立役者である池松真也教授に取材を行いました。


写真1:池松真也教授と次世代シーケンサMiSeq

実績の裏には県や研究機関との早期の連携の努力    

質問:
これまで生物資源工学科では、バイオインフォマティクス技術者認定試験合格者を多く輩出し、バイオインフォマティクスを活用した研究成果も既に多く発表されています。こうした実績が認められ、池松先生は国立高等専門学校機構理事長賞も受賞されています(詳細はこちら)。このような成果に至った背景はどのようなものだったのでしょうか。

池松教授:
H20年度に沖縄県が他府県に先駆け“次世代シーケンサ”を3台導入しました。私は県より機種選定委員に任命されると同時に事業への参加も果たしました。この最先端の機器を本校の教育にも導入したいと考え、沖縄県や沖縄科学技術大学院大学(OIST)と連携し、超高速シーケンサと連動するバイオインフォマティクス人材育成事業の立ち上げと本校学生への啓蒙を行ってきました。日本バイオインフォマティクス学会の主催する「バイオインフォマティクス技術者認定試験」は、当時全国に5か所(仙台・東京・長浜・大阪・福岡)しか試験会場がなく、沖縄県に学会と交渉し沖縄支部を新設していただき会場も設置していただきました(現在、沖縄会場も含め全国6か所)。私は支部長を務めていますが、沖縄高専が試験会場となり、多い年は全国で3位に入るほどの受験者が出ています。この取り組みを高学年から低学年に広め、例えば、私が顧問である生物資源研究会では沖縄の生物資源をテーマに先端技術の応用を学習し、全国規模のコンテストにグループを組んで挑戦するようになっています。

授業にもバイオインフォマティクスの内容を積極的に導入    

質問:
バイオインフォマティクス技術者認定試験はこれまで多くの合格者が輩出されています。学生達は早くから認定試験のための勉強を行っているのでしょうか。

池松教授:
H20から私の担当する「生化学」、「遺伝子工学」、「バイオテクノロジー」、「代謝生化学」などの授業にバイオインフォマティクスの紹介や説明を導入しました。特に「遺伝子工学実験」で実際にマウスから臓器を取り、RNAを抽出し、遺伝子を増幅し、塩基配列を解読するという授業を実施し、対象を乳酸菌などに変化させながら、40人の学生が一人ひとりバイオインフォマティクスに触れるように努力しています。一方、専攻科全コース対象の「バイオテクノロジー」でも乳酸菌でヨーグルトを作製する中で沖縄の自然界から乳酸菌を単離し、ゲノムを解読するバイオインフォマティクスの過程を説明することで生物資源工学コース以外の学生も生物的な情報学の有用性に気付き、興味を持つように努力しています。一方、学生達も自分たちで放課後に勉強会を開催するなどして試験に合格できるような対策をしています。


写真2:平成21年度のバイオインフォマティクス技術者認定試験に合格した学生達

次世代シーケンサを活用した研究教育活動の展開    

質問:
次世代シーケンサMiSeqも設置されて使われていますが、どのような用途で使われているのでしょうか。

池松教授:
生物資源工学科では、(1)生物化学工学群、(2)環境・微生物学群、(3)食品化学工学群の3群を軸に授業科目を編成しています。これら3群に関する教育・研究の中で次世代シーケンサも活用されています。例えば、がん細胞に生物資源から取り出したエキスを与えたときに細胞の中でどのような遺伝子の発現変化が起こるのかを調べたり、その土の中にどのような微生物が住んでいるのかを調べたり、サンゴ病変部に潜んでいる微生物たちを調べたり、さらには、その食品を食べていると腸の中の微生物たちがどのように変化していくのかを調べたりするのに利用しています。

質問:
次世代シーケンサMiSeqのデータ解析は学生達も行っているのでしょうか。

池松教授:
沖縄高専では授業にプログラミングや基本的な統計解析の内容もあり、そうした基礎知識を活かして、学生自ら解析のパイプラインを構築して進めたりしています。難しかったり、分からないところは先輩に相談して解決しています。データ解析には、バイオインフォマティクス技術者認定試験で学んだことが活用できています。


写真3:MiSeqから得られた大量配列データを用いたバイオインフォマティクス解析を日常から行っている学生達

バイオインフォマティクスを「社会実装」の機会へつなげる    

質問:
今後のバイオインフォマティクス関連人材育成に関する抱負があれば教えてもらえますか。

池松教授:
「バイオインフォマティクス技術者認定試験」は大学院以上を対象としていますが、受験することで学習の達成度が評価できます。また、受験学習のため、専攻科生を中心に有志で勉強会を開始し、2年連続全国最年少合格者を輩出し、学会より表彰を受けました(15歳の学生が合格したため、これ以上の更新は難しい状況)。この勉強会には琉球大学や沖縄科学技術大学院大学(OIST)の教職員にもご協力いただき、より高度な解析方法の学習にもつながっています。今後は、国立遺伝学研究所の先生方にも授業をしていただく予定です。より多くの学生がバイオインフォマティクスに興味を持ち、技術者認定試験を受験してくれることを希望しています。また、県内外との取組みとしてアサヒグループホールディングス様と大宜味村との共同研究として実施している「大宜味村長寿解明プロジェクト」での90歳以上のおばあちゃんたちの腸内フローラ解析作業などは、社会人と学生が共同で作業する機会であり、学校で勉強したことがどのくらい世の中の役に立つのかを自分自身で確かめる“社会実装”の貴重な機会であり、今後もっとこのような共同研究を増やし、学生たちにチャンス与えていきたいと思います。

池松真也教授の研究室サイトはこちら
池松真也教授の研究成果に関する記事は以下。
沖ハム、高専が共同研究で新乳酸菌 県内初の特許取得
オルソリバース、綿状人工骨でがん治療 沖縄高専と研究

卒業研究の成果を世界に発信−専攻科1年生・宮里春奈さん−

生物資源工学コース1年生の宮里春奈さんが、卒業研究の成果を国際誌(Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters: Impact Factor: 2.486)に掲載する快挙を成し遂げました。今回、安藤校長にその成果を報告し(くわしくはこちら)、今回の成果の舞台の裏側について話をしました。

今回の研究成果の核となった実験で用いた顕微鏡。単離した物質の細胞への影響評価を観察するのに用いられた。今回の論文では、アポトーシスを検出する際の画像を撮るのに、蛍光がすぐ退色してしまうので苦労したとの話も。


安藤校長の質問に応じる宮里さんと平良教授

沖縄の豊かな生物資源を活かした研究と熱心な研究指導

安藤校長
今回の研究成果の論文としての公表、誠におめでとうございます。今回の論文はどのような研究内容ですか?

宮里さん
沖縄の海に生きる骨のないサンゴ、ソフトコーラルから単離された化合物が、ヒト大腸癌細胞でアポトーシスを誘導して細胞致死を引き起こすことを証明した成果です。


未知の物質が多く眠っている沖縄近海のソフトコーラル

安藤校長
興味深い内容ですね。学会などでも好評を得たかと思います。宮里さんのような年で国際誌に論文を出すというのはまれではないでしょうか。

平良教授
めったにいないですね。今回の内容は卒業研究をまとめた成果で、快挙と言えます。元々宮里さんは英語力が非常に高かったので、よく進めてくれました。関連論文を非常に多く読んでいて、論文を書く前からよく勉強されていましたね。


宮里さんの研究への取り組みを語る平良教授

研究の裏に地道な英語の勉強のための日々の努力の積み重ね

安藤校長
先生方のご指導の賜物かと思います。宮里さんは、ご自身で英語はどのように勉強されましたか?


英語の勉強の方法を宮里さんに尋ねる安藤校長

宮里さん
ラジオ英会話や名護市の無料の英会話講座などを積極的に活用するようにしました。沖縄高専の授業でも論文を読む機会があり、その中でも英語論文の読み方を学ぶことができました。

平良教授
科学技術英語などでも宮里さんが学生達を引っ張って指導するなど、とても頼りになります。

安藤校長
学術論文を読みこなすにはボキャブラリーが大事になりますね。ぜひ後輩達にも啓蒙してもらえればと思います。宮里さんは、将来はどのような進路を考えていますか?

宮里さん
沖縄に残って、地元を支えられる仕事に関わっていきたいと考えています。

安藤校長
ぜひ将来羽ばたいてもらえるように応援しています。いつかは沖縄の後輩達を教えるような立場になることも考えて邁進してもらえればと思います。

今回発表された論文は以下からご覧頂けます。
Miyazato, H.Taira, J., Ueda, K. Hydrogen peroxide derived from marine peroxy sesquiterpenoids induces apoptosis in HCT116 human colon cancer cells. Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters, 26, 4641–4644, 2016. 

関連共著論文は以下からご覧頂けます。
Roy, P. K., Ashimine, R., Miyazato, H.Taira, J., Ueda, K. Endoperoxy and hydroperoxy cadinane-type sesquiterpenoids from an Okinawan soft coral, Sinularia sp. Archives of Pharmacal Research, 39, 778–784, 2016.

Roy, P. K., Ashimine, R., Miyazato, H.Taira, J., Ueda, K. New Casbane and Cembrane Diterpenoids from an Okinawan Soft Coral, Lobophytum sp. Molecules, 21(5), 679, 2016.